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……タイッ!?_16

お引越し

 放課後、運動部員がグラウンドで汗を流し、吹奏楽部が屋上で演奏をしている中、部室棟の一室では引越し作業が行われていた。
 女子陸上部の新部室の申請が通り、男女別々の部屋があてがわれることとなり、すでにロッカーやパイプ椅子、机などが運び込まれている。
 あとは細かな掃除ぐらいなのでキャプテンの久恵と紀夫で後始末をしていた。
 学校指定のジャージの上にエプロンと三角巾を羽織り、雑巾片手に部屋を行き来する彼の姿は違和感が無く、むしろそれが哀愁を誘う。
「ふう……梨本先輩、あとは僕一人でできますよ」
「でもまだたくさん残ってるわよ」
 縁の無いオシャレな眼鏡が理知的な久恵は、陸上部女子の中では珍しい常識の持ち主であり、「後輩に仕事を押し付ける」ことに抵抗があるらしい。もっとも怒らせると怖いらしく、つい最近も遅刻癖のある理恵に雷を落としたばかりだった。
「先輩は練習をがんばってください。僕はこれぐらいしか出来ませんし、皆さんが練習に集中できるようにするのがマネージャーの務めですから」
 今週末は二年である久恵にとって最後の高校総体が控えており、本来なら掃除などしている暇は無い。ただ、彼女自身優秀なアスリートでないことを自覚しており、醒めた風があった。
「そう、それじゃあお願いね」
 それでも部員の手前、投げやりな態度を見せないように心がけている。
「はい、がんばってください。先輩!」
 だからだろうか、彼の無責任な応援を背に受けながらも、こっそりとため息をついていた。

**――**

 パイプ椅子に立ちカーテンレールの埃を掃う。スモークガラスだが中の様子が見えては困るので支給された濃紺のカーテンをつける。
 つい最近まで物置だった部屋は埃臭く、窓枠にはカビも目立つ。細かなことと思いつつも使用するのは女子なので、歯ブラシ片手に重箱の隅を掃除しだす。
 一人でできると見栄をはったものの、几帳面な彼は枝葉末子まで掃除してしまい、なかなか終りそうにない。
「おーっす、失礼するぞ」
「はーい」
 ドアがガチャリと開き、綾が私物片手にやってくるが、掃除に余念の無い紀夫は振り返らず、熱心に窓枠やクロズミの目立つ部分を掃除する。
「ロッカー使うぞ」
「はい、掃除は終わってますから……」
 綾は隅っこのロッカーに荷物を入れると、頑丈そうな南京鍵を掛ける。
 ――そんなにしなくたっていいのに……。
 紀夫は内心彼女の徹底振りに呆れつつ、それを気取られぬように前を見る。
「おいマネージャー、ここって換気扇ついてんだ? 回るの?」
 上を見ると蛍光灯脇にファンが見えた。
「あ、ほんとだ。えっと、動くはずですけど、クーラーはないですけどね」
「そうなんだ。ふーん、そっか……」
 ほっと胸を撫で下ろす彼女を訝りながらも、紀夫は去っていく彼女に「練習がんばってください」とだけ声をかける。
 黒ずみ除去の次は換気扇の掃除。
 綾に言われるまで気付かなかったが、運動部の部室には備え付けのものが無かった。更衣室として使うことが多い部室と、文芸部のように屋内での活動がメインの場合ではその設備に若干の違いがあるようだが、夏になればきっと窓を全開にしているのだろう。
「おっはよー、……ってノリチン張り切ってるねー」
 ファンの埃に咽ていると、今度は理恵がやってくる。彼女はまだ制服姿だが、補習授業にでていたのだろう。
「理恵さん、おはよう。また遅刻?」
 ドアを閉めるとおもむろにリボンタイを解き、ブラウスを脱ぐ。紀夫が慌てて顔を背けるも、理恵は「今更恥ずかしがる必要なくない?」とからかう。
「誰かさんが補習サボルんだもん」
「……サボルって、僕は部室の明け渡しとか色々忙しかったから」
 背後ではスカートがふぁさりと落ちる。しっとり感と弾力のある尻、形の良い、大きなお尻を見たい誘惑に駆られる紀夫だが、振り返るとすでに短パン姿になっていた。
「へー、これが新しい部室。前より明るい感じがしていいね」
 そこらへんは清掃の賜物だろう。彼は壁の汚れもしっかり落としたのだし、ロッカーの表面もしっかり拭き、舗装のはげかけた部分もしっかり色を塗っていた。
「うふふ……」
「どうしたの?」
「だってぇ……」
 妙な笑い声をする理恵は掃除中の彼に寄り添い、両肩にそっと手を添えてふうっと息を吹きかける。
「お外よりいいかなって思ってさ……」
「……もう、理恵さんったら……」
 数日前のことを思い出すと気恥ずかしさを覚えてしまう。
 彼女の魅惑的なお尻にほだされ、無理矢理求めてしまった自分。
 恋愛感情もなく、ただ青臭い性欲にのまれたことを今もなお反省している。
「約束だよ?」
「うん」
 不謹慎な口約束を取り交わすと、理恵は荷物を近くのロッカーにしまって去っていく。
 肩に残る感触とほのかに香る桃のエチケットスプレーを感じながら、紀夫は一人悩みの花を咲かせていた。
 ――理恵さん。僕のことどう思っているのかな?
 肌を重ねたとはいえ、好きと言われたことは無い。例え言われたとしても、それは性行為の結果か、それとも補習の神様としての信仰か。
「でも約束……」
「したの?」
「え、うわあ!」
 振り向くと今度は里美がいた。彼女はタオルを首からかけ、スポーツドリンクを飲んでいた。
 どうやらせっかちな理恵がドアも閉めずに出て行ったらしく、里美が入ってきたことに気がつかなかったらしい。とはいえ、音も無く背後に近づかれるのは非常に心臓に悪い。出来れば止めてもらいたいことなのだが……。
「隙が多いですぞ? 島本殿」
「面目無い」
 してやったりと笑う里美を前に頭を掻いてしまう。
「んで、何を約束したの?」
「あ、それは……えっと……」
 まるい目をキョトンとさせながら見つめる里美を前に、紀夫は何故か咄嗟の嘘が思いつけなかった。何故か口が渇き、声がかすれてしまう。埃を吸い込みすぎたのだろうか? きっとそうだろう。それ以外に考えられない。
「はい、あげる」
 それに気付いたのか里美は飲みかけのペットボトルとストローを渡してくる。
「え? あ、ありがと。喉渇いたから助かったよ」
 んぐんぐと音を立てて飲み込むと、ぬるい水分でもそれなりに気持ちが良い。
「んで、何を約束したの?」
「うぐっ! げふげふ……んもう、次の補習手伝ってことだよ。理恵さん、ほんとしょうがないよね……あはは」
 喉を潤したおかげか嘘もすうっと舌を滑る。半分本当でもあり、特に罪悪感も無い。
「ふーん。そうなんだ。まあいいわ。ご苦労様」
 そういうと里美はドリンクを受け取り、そのままチューチュー吸いながら出て行った。
 ――もう、香山さんまでどうしたっていうのさ?
 再び作業に戻る紀夫だが、自然と胸と顔が熱くなるのは何も初夏に向う気温のせいだけではない。果たして気がついているのか……?

続き

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