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……タイッ!?_17

放課後の部室

 週末に高校総体を直前に控えた月曜日、陸上部一同は張り詰めていた。
 実のところ夏休み明けにも市の大会があるのだが、かなり意味合いが違う。
 簡単にいえば規模。
 新人戦もかねているため、出場者は常に数百単位に上る。
 穿ってみれば内申書。
 とはいえ、所詮は市の一大会に過ぎず、上位入賞を果たしたところで表彰される程度。推薦入試の材料としてはいまひとつ華が欠けるらしい。そもそもインターハイに出場する選手は時期的に被ってしまい、参加できないのである。
 つまり、上位が参加せずの出来レース、高校最後の思いで作りをさせましょうという程度である。
 だからこそ、二年生は今大会に全力を尽くそうとしている。
 幅跳びを選択している紅葉は入念に踏み切りまでのフォームをチェックしており、ビデオカメラを使って何度も確認をしていた。
 長距離走の美奈子は後輩の綾にペースの確認を依頼している。
 他の二年生も各々最後の希望に向けて汗を流していた……が、久恵は一人隅っこで柔軟運動をしていた。
「先輩、練習いいんですか?」
 紀夫はビデオのバッテリーを交換するついでに声をかける。
「うん。今からがんばっても意味ないし。っていうか、怪我したら元も子もないじゃない?」
 久恵が短距離走を選択していたのを思い出す。確かに一日二日根をつめた程度で記録が左右されるはずもなく、彼女の言うことももっともに思えた。ただ、最初から諦めムードの漂う彼女の様子を見るのは心中複雑だった。
「おーい、ノリチン! こっちこっち!」
「あ、うん。今いくよ」
 発破をかける言葉も見つからず、急かされるまま理恵のほうへと走る紀夫は、内心狡さと思いつつ、これもマネージャーの役割と割り切る。
「えっと、これは?」
 ビニール製のぽんぽんが多数と、それを持つチアリーディング部の面々を前に紀夫は首を傾げる。
「うん。応援団だよ。総体での応援に来てくれるんだって」
「はあ……」
 入学式の後でのレクリエーションでチアリーディング部のパフォーマンスを見たことがある。白を基調としたレオタードのようなユニフォームとミニのスカートをヒラヒラさせながら演技をこなす姿に見惚れていたのは良い思い出。
 桜蘭はまだ男子が少ないせいか応援団が組織されていない代わりにチア部が応援市に着てくれるらしい。チア部の面々も久しぶりの晴れ舞台に意気揚々としている。
「で、僕に何しろっていうの?」
「えっと、参加?」
 ひとさし指を唇に当ててしれっと言い放つ理恵に、さすがの紀夫も驚きを隠せない。
「や、ヤダよ。絶対やだからね! ふざけないでよ」
 股間の切れ込みどぎついユニフォーム姿で踊るなどもってのほか。
「でも、男の子もいるよ?」
「うえ?」
 チア部員達を見ると……、背の低い男子が一人、ツインテールの女の子にからかわれながらぽんぽんを持っているのが見えた。
 ――マジですか?
 さすがに上下は普通の体操服なので多少は驚きも少ないが、やはり抵抗はある。
「あはは、コータ、似合ってるよー」
「やめてよりっちゃん、僕こういうの慣れてないんだから……」
 慣れてたらそれはそれで問題と思いつつ、童顔、おかっぱ頭の男子から目を逸らす。グラウンドのほうでは走り込みを終えた稔と優が戻ってきており、タオルで顔を拭いていた。
「あ、ゴメン、マネージャーとしての仕事あるから、それじゃあね!」
「あ、こら待ちなさい!」
 理恵の悪趣味に付き合わされるのはゴメンと、紀夫は駆け出していた。

**――**

 ――あー疲れた……。
 部室の掃除にビデオのチェック。電算室にてその編集を終えた頃にはすでに部活も終わっていた。
 自宅にパソコンのある部員には動画を送信済みで、その他の人には明日直接渡せばよい。大会直前に行うべき練習なのかは別として、大分マネージャーらしくなってきたと自負する紀夫だった。
 そのせいか、多少の疲れも満足感を伴うものになっていた。
 あとは部室の戸締りをして鍵を返すだけ。肉体労働に向かない身体に鞭を打ち、紀夫は部室に向かった。

 まだ日は明るく、グラウンドではソフトボール部員の軽快なノック音が響き、ブラスバンド部の演奏が屋上から聞こえた。
 陸上部は男子も女子も居らず、練習用具も片付けられている。
 部室棟もほとんど明かりが無く、これから練習の始まるバスケ部員が戸締りをしながら出て行ったのが最後だろう。
 男子部員の姿が見えないだけで妙な不安を覚えてしまうが、よくよく部員の動きを見ていると、一人で行動する人の方が少ないことがわかる。また、日によって断じ部員が部活を早引けしていたりするので、特に気をつけねばならないのは悟だけであることもわかった。
 一対一なら抵抗ができる。時間も稼げるだろうし、集団心理というものも働かないだろう。それこそ両者合意の上でなければ破廉恥なことなど起こらない。
 ――でも、平山先生は佐伯君と……、やっぱり好き同士だとそういうことしちゃうのかな? あ、でも俺も理恵さんと……。
 公園での破廉恥な行為。今思い出しても何故あのように求めたのか恥ずかしくなる。
 ただ、素敵な感触だったのも事実。
 ――理恵さん、また……したい……かも。
「ん、んぅ……」
 ――うえ!
 淫らな妄想をしたせいか幻聴まで聞こえ出したのだろうか?
「はぁ……あぁ、先輩……いいっす……」
 今度は聞き間違いではない。少なくとも紀夫は先輩との行為を妄想した覚えは無いのだから。
 果たしてどこからだろうか?
 今しがた出て行ったバスケ部は置いといて、まずはチア部。
 誰もいない。
 ソフトボールは?
 男子部員がいないはず。
 水泳部かも?
 休部状態らしく、人気が無い。
 その他、どの部室にもそれらしい人影は見当たらない。
 つまり……、
 ――陸上部。それも、新部室から……だ。
 暗澹たる思いが胸に訪れる。
 自分は何のために部室申請をしたのか。結局悟に出し抜かれてしまうなんて。
 ――いや、まだ終りじゃない。今からだって助けられるし!
「失礼します!」
 決心してドアノブを回す。戸が閉まっていようが構わない。鍵は持っているのだ。問題はこのことが大事にならないかどうか。
 もし被害に遭っている部員が騒ぎ出したら、自分にそれを抑える術は無い。もちろん悪いのは加害者である男子部員だが、それでも里美の期待に応えることは出来ない。
 正直半々な状況だが……。
「んぷぅ……あふぅ……」
 薄暗い部室、テーブルに腰かけて背中を向けているのは悟だった。よく目を凝らすと、誰かが彼の股間の前で頭を前後させている。
「なんだよ、マネージャーか。何しにきたんだ?」
「何って、お前こそ何してるんだ! ここは部室だぞ! とにかくその人を放せ!」
「おいおい、なに興奮してんだ? ああそうか、童貞には刺激が強すぎたか? これなあ、フェラチオっていうんだ? してもらったことないだろ?」
「な……! 俺は童貞じゃない!」
 確かにしてもらったことは無い。が、童貞でもない紀夫は妙な反感を覚えてしまう。
「そうかよ。まあいいさ。でもな、放せはねーな。だってこの人が咥えたくてしてるんだし」
「何いってるんだ! そんなことあるわけ無いだろ!」
「……どうでもいいけど、マネージャー君、ドア閉めてくれない?」
「え!? あ、はい……」
 後手にドアをしめるも、彼は驚きを隠せない。
 三つ編みをかき上げる彼女の縁の無い眼鏡が光を反射し、そして再び顔を埋めていたのが印象的だった。

**――**

 数分もたたずに悟は呻き声を上げた。その後、彼は久恵に顔を向けることなく服を直すと、紀夫に「残念だった、正義のマネージャーさん」と皮肉を言い、さっていった。
「ふぅ……」
「あ、あの」
「何? 君もしたいの? いいよ。私もしてあげたい気分だし……」
 唇に残る精液をティッシュで拭き取りながら久恵は立ち上がり、手招きする。
「なんで、こんなこと?」
「なんでって、しちゃ悪い?」
「悪いですよ。だってここは部室ですよ?」
「部室っていっても、みんな隠れてしてるわよ? この前なんてチア部の子、男の子くわえ込んでよがってたし……」
 練習のときに見た女子を思い出す。薄い胸と尻だが、ツインテールと白いコスチュームが魅力的なあの子。相手はあの男子だろうか?
「でも、先輩は部長なんだし……」
「部長でも人間よ? そうね、君と同じように性欲あるし……」
 久恵の視線は紀夫の股間に向いており、その膨らみを面白そうに論う。
「それはわかります。けど、今週末は試合ですよ? もしこんなことがばれて大事になったらどうするんですか?」
「そうね。それは大変ね。もしかしたら出場停止処分になるかもね……」
 自分もエントリーしているはずなのにどこか他人ごとのように嘯く久恵に、紀夫は苛立ちを覚えた。
 背筋に火花が走り、かっかと顔面が熱くなる。脳裏が真っ白になって気持ちが抑えにくくなる。
「そんなことになったら困ります! 皆一生懸命練習してるんだから、それを台無しにするようなこと!」
「そう……、一生懸命してるんだから、邪魔しちゃ悪いわよね……」
「ふざけないで下さい!」
 いつも温厚な笑顔と冷静、常識的な態度を示す久恵が何故? そして、何故彼女はそうも他人事のように振舞うのか?
 理解できない現実が一層彼の思考を煮えたぎらせ、声を荒げさせた。
「そんなに怒らないで……。君、溜まってるんじゃない?」
「なんで話を逸らすんですか。真面目に答えてください」
 声は粗ぶるものの、歩み寄る久恵にたじろぐ紀夫。
「怒鳴らないでよ。怖いからさ……。大丈夫よ、ばれても平山先生なら誤魔化せるし、男の教師なら私が……ね?」
「そんな……いけませんよ……」
「君も……してあげるよ。んーん、させてよ……お願い」
 ロッカーに退路を阻まれる紀夫は絶対絶命? 追い詰められてしまう。
 ――先輩、いい匂い。それに、すごいエッチな感じ……。
 ぬめる唇を下で拭う。他人の残滓であると知りつつも魅惑の果実の樹液に見えてしまい、それすら吸い付いて味わいたくなる自分が居る。
 縁なしの眼鏡の奥に見える穏やかな垂れ目は可愛らしいのに、その眉はどこかくたびれた心情を見せ、物悲しかった。
「先輩、悩みでも……」
「な・ま・い・き」
 久恵の目が閉じられたとき、すうっと唇が近づき、紀夫は観念どころか期待をしていた。
「失礼します……」
 それを止めたのは里美の声。
 すこしばっかり怒りを含んでいたのはきっと気のせいだろう……が?

続く

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