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……タイッ!?_18

苛立ち

「……で、一体何をしていたのかしら?」
 凍りつく時間を動かしたのは丁寧なとげとげしさを持つ紅葉の声。彼女は里美の背後からひょいと顔を出し、三人の顔を見る。
「別に? ただマネージャー君の髪にゴミがついてたから払ってあげただけよ……」
 フンとつまらなそうに鼻息を荒げると、久恵は自分のロッカーから通学鞄を取り出す。
「それじゃ、あとよろしくね」
「え、あ、はい……。おつかれさまです……」
「ちょっと、待ってください先輩、まだ話は……」
 強引に部室を出ようとする久恵の背に、里美は不機嫌そうな表情で食い下がる。
「何かあったかしら? 香山さん」
 久恵は澄ました表情で一言告げる。普段から真面目一色で練習中は冗談一つ言わない彼女。その一面しか知らないせいか、続く言葉が出てこない。
「いえ、なんでも……」
「もうすぐ総体なんだから、皆も練習後はしっかり休んで怪我とかしないようにね」
「はい……」
 放課後の部室。疑惑の距離を問い詰めることも出来ず、ただ壁を見るだけ。
 神聖な部室。新しい部室。男の、というより性の臭いの無い部室が汚された。しかもそれは自分を守ると言った男子と真面目な部長。
 当然看過できるはずもなく、しかも言い返せずにいた自分への怒りも重なり、里美の拳はわなわなと震えていた。
「それでぇ? 一体何をしていたのかしら?」
「だから、ゴミをちょっと……」
 再び紅葉の追及の声に、紀夫はオウムのように同じ言葉を繰り返す。
「ふーん……、島本君、君はこんなに近くによってもらわないとゴミも取れないの……。そんならあたしが取ってあげるわよ! ほらほら!」
 振り返る里美はずいと顔を近づけ、力任せに頬をつねりだす。
「い、いらいよ、香山さん。いらいっればあ!」
 半開きの口から空気が漏れてしまりのない抵抗をする紀夫。
「君、最近調子乗りすぎだっつうの! そんなことさせるために入部させたんじゃないんだからね!」
「ら、らって、そんらころいっらっれ~」
 ホッペタを縦々横々と交互にいじくる里美は、何度も瞬きしながら唇を尖らせ彼を責める。一方、興奮から一転してねじ切られる痛みに襲われる紀夫は目をぎゅっとつぶって彼女の怒りが収まるのを祈るばかり。
「ふふふ。楽しそうね……」
「何言ってるんですか! こいつは、こいつは!」
「里美ちゃん、やきもちやいてるの?」
「な! そんなもんやきません! こんなネクラでオタクな運動音痴、誰が!」
 ようやくつねっていた手を離すも紀夫の両頬はリンゴのように真っ赤っか。腫れ上がった部分をさすりながら「いちち」と呟いてしまう。
「なんだよ、香山さんが入部してって言うからじゃん……」
「何よ。困ってる人を助けるのは当然でしょ? ていうか、誰も君にあんなことしろなんて頼んでません!」
「あんなことってなにかな?」
 面白がっている風の紅葉が遠慮なく突っ込みを入れるので、どうしてもペースが乱れてしまう。いつもなら……どうするのかは置いといて。
「それはその、あんな風なんだから、やっぱり、その……みたいな? こと?」
「それじゃわかんないな。ていうか、そんなんで苛められたマネージャー君が可哀想」
 紅葉は里美を交わすと、頬をさする紀夫の傍に立ち、そっと頬を撫でる。
「可哀想にね。里美ちゃん、こういうの経験無いからすぐ嫉妬してテンパるのよ。わかってあげてね。ちょっぴり素直になれないだけだから……」
「え? え?」
「ちょっと先輩、それどういう意味ですか?」
 困惑気味の紀夫とそれに向き合う紅葉の間に割り込み、キッと彼女を睨む。
「どういうって……、見たまんまじゃない? 今度はあたしに嫉妬してるんでしょ?」
「してません!」
「うふふ。素直じゃないな。そんなんじゃ紀夫君が疲れちゃうよ?」
「こんな奴、ボロゾーキンになるまで絞りとってやりますよーだ!」
「そう? でもあんまりすると、赤い玉がでちゃうかもね……」
「「?」」
 意味不明な例え? に顔を見合わせる二人だが、紅葉はそれに構わずロッカーから鞄を取り、そのまま部室を後にする。
「それじゃね。バイバイ」
「おつかれさまです!」
 不機嫌な里美はフンと鼻息を荒げながら自分のロッカーに向う。そして乱暴に戸を開けると、やはり乱暴に荷物を取り出し、部室を出ようとする。
「香山さん、待ってよ。危ないから一緒に帰ろう」
 鞄片手に追いすがる紀夫に里美は冷たい視線を向けつつも立ち止まる。
「……そうね、聞きたいことあるし、鍵置いてきたらすぐに来なさいよ」
「は、はい……」
 ぶしつけな命令口調も妙な迫力のもと従うしかなかった。

**――**

 里美の帰り道は紀夫のそれと逆方向。いくら自転車とはいえそれなりの距離になるのが面倒だったが、それでも彼女を守るのが本来の役目なのだと無理に納得する。
 それに先ほどまで悟もいたのだ。彼が一人で行動を起こすかは不明だが、もし二人きりで遭遇したら、それだけでも辛いのではなかろうか? そんな老婆心が紀夫にはあった。
「ねえ、部室で何してたのよ」
 もっとも里美の目的は別にあるらしく、十数分歩いて初めて口を開いたのは部室での続きだった。
「別に何も無いよ」
 そう、何も無かった。が、あと少し彼女達の到着が遅れていたら、あるいは?
「先輩とあんなに顔近づけちゃってさ、キスしそうだったじゃない」
「そんな、キスなんてしないよ。第一、僕はそんなにもてないでしょ」
 この前と同じ言い訳に自分が嫌になる。何故こうも言い訳のスキルがないのか? 彼女の不満そうな視線がいたかった。
「それに最近調子に乗ってるよ? 理恵とも仲良くしちゃってさ、なんかヤラシイの」
 路肩の小石を蹴ると、からんからんと音を立てて転がっていった。
「部員と仲良くしちゃいけないの? 俺は香山さんだけのマネージャーじゃないんだよ?」
「俺だって。ヘンナノ」
「なにがさ?」
「だって君、前まで僕だったでしょ? 僕、僕、僕、あーキモチワルイ」
「なんだよ、俺っていってるんだからいいだろ?」
「俺だって、調子こきすぎー」
「さっきから変だよ香山さん」
「何よ、もとはといえば君が変だからいけないんじゃない!」
 先ほどと同じく向かい合って口角泡を飛ばす二人。夕日も西の空に消え、互いの顔も良く見えない。そのせいか……、
「僕は普段どおりでしょ?」
「今度は僕? キモーイ!」
「なんだよ、自分をどう言おうが勝手だろ!」
「練習中も理恵のお尻ばっかりみてさ。やらしいんだから」
 前髪が触れ合うとこそばゆさを覚えるが、ムキになった二人はそれを意識的に無視する。今退けばそれは負けを認めることに繋がりかねないとばかりに。
「僕は香山さんの為に……」
「ならちゃんとあたしをサポートなさいよ……。理恵のことばっかりじゃなくて……」
「それはだから……あっ……」
「あ、やだっ……」
 自転車を間に挟んでいながらも、不思議な引力に吸引される二人の手がサドルの上でそっと触れてしまう。
「エッチ……」
「手ぐらいじゃない」
「嬉しいくせに……」
 スカートにゴシゴシこすり付ける里美とは対照的に特に何もしない紀夫。
「うん……」
 それでも嫌な気はしないと肯定する。
「エッチじゃん」
「うん……」
 それも否定しない。
「知らない!」
 素直というべきか受け入れる紀夫の態度にいらだったのか、里美は心中複雑な様子で走り出す。
「待ってよ、送って……」
 追いかけようにも躊躇距離の彼女に追いつけるはずも無く、自転車を走らそうとして勢い余って転んでしまう。
「もう近くだから平気よ。バイバイ!」
 立て直す紀夫に響いたのは、ほろ苦さを含む里美の声だった……。

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