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……タイッ!?_19

大会初日

 総体当日は少し雲が目立っていた。開会式の選手宣誓の頃には既に霧雨が舞っており、薄暗い雲が選手の心中に不安がよぎらせた。
 それらは皆同じ条件……のはずが、選手達はどうしても自分にだけ不利な気になってしまう。
 里美もその一人だった。
 彼女の出場する予定の千メートル走は明日の午後。それまでは他の部員の応援でしかないが、肌をぬらす霧雨が体温を奪い酷く不快だった。
「香山さん。大丈夫?」
 事務手続きを済ませてきた紀夫がタオル片手にやってくる。
「大丈夫ってなによ。平気に決まってるでしょ? ばっかじゃない?」
 つい尖った口調で返してしまうのは、なにも今日のコンディションだけが原因ではない。
「あたし、集中したいから話しかけないで」
 数日前の些細な言い争いが端を発し、昨日の放課後までの間、まともな会話は一つも無かった。
 彼女にとって彼だけが友達と言うわけではない。そもそも休み時間は女子と話すことが多いし、彼自身、電算室や職員室、生徒会室とあわただしく走り回っており、教室でのんびり過ごすことが少なかった。部活中は自分の練習もあり、ものの五分という時間すら作らずにいられた。
 自然に彼を避けることが出来た。

 のに……?

 もしかしたらそれが苛立ちの原因かもしれないと思うと、里美の心中はさらに荒れ模様をなした。

**――**

「いっけー!」
「ガンバレー、キャプテーン!」
「ごーごー、桜蘭! いけいけ、桜蘭!」
 応援席では陸上部員、チア部員が懸命に声援を投げる。チア部には理恵や優が混ざり、一緒になってカラフルなぽんぽんを振っていた。
 グラウンドの中央では走り高跳びが行われており、二年の女子数名が参加している。
 そのさらに奥の砂場では幅跳びも行われており、キャプテンである久恵、紅葉が競技の開始を待っていた。
 ――久恵先輩、大丈夫かな?
 部室での一件はまだ彼の心に陰を落としている。
 紀夫は久恵の普段の様子を知っているわけではない。彼女がどういうつもりで陸上を続け、キャプテンを担い、そしてあの態度を示したこと。
 女子に性欲が無いと思っていたのは、彼が中学生程度の性知識しか持たず、男であったたため。けれど理恵との付き合いのせいか、それが間違いであることも理解できた。だから久恵がそういうことに興じたいとしても、それは不思議ではなかった。
 例え、部室であっても、相手が誰であろうとも……。
「ガンバレー! ……ほら、ノリチンも声だしてこ?」
「え? あ、うん! がんばれ!」
 ユニフォームこそ陸上部のものだが、ヒラヒラした青いスカートを翻す理恵。マニアックな洋装にドキっとしながら、それを隠そうと声を張り上げる紀夫だった。

**――**

 午後は短距離走が予定されており、綾と美奈子、和彦が体を温めている。
「あーあ、いいなあ、私もおなか空いたなあ……」
 グラウンドジャケットを着ながらその場足踏みを踏む美奈子は、昼食の用意をする部員を見ながら指を咥えている。
「何言ってるんですか先輩、そういう邪な気持ちはあとあと、今は目の前のことをがんばりましょ!」
「綾は真面目すぎー」
 ストレッチしながら綾が言うと、美奈子はつまらなそうに頷く。
 おそらく彼女達の昼飯はバナナとスポーツドリンクのみだろう。既に競技を終えた、明日の予定の面々は、チア部の男子が用意してくれた三段の重箱を突いていた。
 和彦はというと、愛理を捕まえて何か話しているが、談笑のあとピンクの包みを受け取っていたのが見えた。
「……やっぱりあの二人、そういう関係なのかな?」
「さ、さあね。知らないなあ……」
 理恵が口元に手を当てながら小声で言うので、真相を知る里美は喉を詰まらせてしまう。
「ねえ、ノリチンもやっぱりお弁当とか作ってもらいたい?」
 のりの悪い里美を放って、理恵はさらに紀夫に話題を振る。
「え? ああ、そうだね。やっぱり料理ができるといいね」
 コンビニで買ったおにぎりを頬張りながらビデオをチェックする紀夫は一般論程度で答える。
「んもー、そうじゃないでしょ? そうねえ、明日作ってきてあげたら嬉い?」
「え? いいの? それじゃあお願いしようかな?」
 電池を換えながら手に着いた海苔を頬張ると、そのまま短距離走のスタート地点へ向い、場所取りを始めてしまう。
「ぶー、ツマンナイ答え」
「いいじゃん。別に島本なんてさ……」
 里美は甘辛風味の竜田揚げを頬張りながらつまらなそうに言う。
「ふーん、サトミンはいいの? あたしがノリチンのお昼を作ってきてもさ」
「何言ってるの? 別にいいじゃん。そんなの」
「そうなんだー。知らなかったなー」
 頭のてっぺんから膝の辺りまでじろじろ見定める理恵は、どこか珍獣を見る風でもあった。
「何よ? 言いたいことがあるなら言いなさいよ」
 最近この手の嫌がらせを受けることの多い里美はついムキになってしまう。
「んーん、べつにい」
「こら、理恵ちゃん! あんまり里美ちゃんを苛めちゃ駄目よ?」
 つい最近あんまり里美ちゃんを苛めていた紅葉が口を挟む。
「先輩……」
「里美ちゃんは素直じゃないんだからね?」
「はーい!」
「先輩!」
『午後の競技の参加者は第二ゲートに集まってください。繰り返します……』
 昼時の怒声も続く短距離走のアナウンスの前にかき消されてしまう。
「お、そんじゃ行ってきます!」
「うん、がんばれ!」
 綾は振り返らずにガッツポーズを返し、美奈子と和彦もそれに倣った……。

続き

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