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……タイッ!?_22

立ち聞き

 人に聞かれると困る類の話だからと、控え室隣の倉庫に入る。四畳半程度の広さの部屋はコンクリートの床でひんやり寒く、大きなモザイクガラスの窓がある程度。棚には鉄杭がいくつか立てかけられており、簡易式のテントセットや表彰台、他にも担架などの救急用具があった。おそらく大道具の倉庫なのだろうと分かる。
「で、一体何がなんなんですか?」
「うふふ……。里美ちゃんの不機嫌な理由はね……女の子の日だから!」
「……」
 女子の生理現象に詳しくない紀夫でも「女子の日」程度は知っている。もちろんどの程度の辛さなのかは未体験の領域なのだが。
「それだけですか?」
「嘘よ。嘘。冗談だってばさ」
「俺も忙しいんですけど?」
「やーねー。んでも、半分正解だと思うよ?」
「は?」
 半分だけ生理という事があるのだろうかと首を傾げるが、その困惑気味を視て優越に浸る紅葉は腰に手を当て、胸を張って得意げになる。
 試合の無い紅葉はジャージ姿で、赤を基調とした目に優しくない上下だった。けれど、胸元までが開いており、そこから見えるティーシャツは学校指定のものではなく、黒地にピンクのポップな文字が躍るものだった。ただ、気になるところといえば、それが歪んで見えること。特に肩幅に比べて横と前に出っ張っている点。
「んふふ。見てるの? エッチだね……」
「俺らぐらいの年なんだから、これぐらい普通ですよ」
 女子に対する免疫ならそれなりに出来ている。もちろん頼まれれば拒めない性格は変わっていないのだが。
「走るとき邪魔なのよね。コレ……」
 理恵が聞いたら嫉妬しそうな発言だが、彼女の場合発育が鈍くもある。
「そうなんですか? 俺は良くわかりませんけど」
 できるだけ意識していないように、且つ自然なスケベ心を表そうとぶっきらぼうに言う。
「ねえ、それじゃあ聞くけど、里美ちゃんって女っぽいと思わない?」
「そりゃ女の子ですし……」
「そうじゃなくて……、おっぱいとか、お尻とかさ」
 同じ中学出身とはいえ常に観察していたわけでもなく、話すようになったのも最近になってのこと。とはいえ、女子としての特徴は著しく、ユニフォーム姿だとたまに目線が泳いでしまうことがある。
「里美ちゃん、女っぽくなったじゃない? ウチって共学でしょ? だから男子とかの視線が気になるのよね」
 思わせぶりに笑われると、視線の一人として返す言葉が無い。
「意識しちゃうとどうしても興味を持つのよ」
「何にですか?」
 口腔内が乾く中、掠れた声を絞り出す紀夫。
「知ってるくせに……。エッチよ、エッチ……」
 紅葉のことだから大体の予想はついていた。しかし、里美の事情を知る紀夫からすると、それは的外れに思える。やはりあのことを気にしているのか、普段の練習でも男子とは絶対に視線を合わせないし、向けもしない。
「里美ちゃんのことなら私も知ってるよ。マネージャー君が裏で色々がんばってるのもね」
「うえ? どういう意味ですか?」
「だから、男の子達のことよ」
 特に隠密行動というわけではないが、公表しているわけでもない裏任務を何故紅葉が匂わせるのか?
「そりゃ里美ちゃんにはショックだと思うよ。けどね、それ以上に好奇心ってのは厄介なのよ。一度気になると夜も眠れない。それほどまでにね……」
「はあ……」
「しかも都合の良い男子がいる。なんでもいう事を聞いてくれて、ひ弱でケンカしても勝てそうな」
「それって俺のことですか?」
「他に誰かいたかしら? でも最近君、いろんな女の子と楽しそうにしてるじゃない?」
 思い当たる節はいくつかある。その一人は目の前にいるのだが、それは敢て指摘せず。
「自分にとって都合の良い男子のはずの君が他の子の都合に合わせて動くのってつまらないことよね」
「別に俺は香山さんの専属マネージャーじゃないし……」
「けど、里美ちゃんにとっては代わりの効かない存在よね? 泣き言聞いてもらったりしてさ」
 一体どこまで知っているのだろうか? むしろあの事件と関係があるのではないかと勘ぐりたくなる。
「自分の独占物が他人の手に渡って平気でいられると思う? 里美ちゃん、皆に嫉妬してるのよ。君が自分の手元から離れるのを嫌がって……」
 くすくすと笑いながら「かわいいよね」と言う紅葉に反感を覚える紀夫だが、そのおかしな説得力に篭絡されそうになる自分がいた。
「俺にどうしろっていうんですか?」
「うんとね……、そうね、そこまで考えて無かったわ。でもまあ、君の好きなようにすればいいんじゃない?」
「それなら別に普段どおりに接しますよ。俺はあくまでも陸上部のマネージャーですし」
 努めて冷静を振舞うも内心は空以上に荒れ模様を呈している。いくら紅葉の妄想の域を出ないとはいえ、もしそれが本当なら? という期待があり、里美との関係を意識する気持ちが芽生える。
 そもそも自分は純粋な善意で里美を助けたいのだろうか? 彼女が陸上で記録を出したところで見返りなど無く、それこそ陰日なたの花のごとく。
 困っている、悲観にくれた彼女が立ち直れたことへ関与できたといえば自尊心を補うこともできるが、ただの自己満足の域を出ない。現実はそれを評価せず、彼に残るものといえば疲労感と内申書の部活欄へのコメントぐらい。
 そしてもう一つ重要な問題がある。
 自分自身、里美をどう思っているのか?
 練習中、部員達とけらけら笑いあうたびに短く揃えられた前髪が揺れる。勝気な様子で教員に対しても物怖じすることなく意見を言える人。けれど、その裏では折れやすい繊細な神経を持つ彼女。自らを添え木としてでも力になってあげたいと思わせる。
 それは恋心なのだろうか?
 ――そんなこと……でも、いや、違うでしょ……。
 しかし午前中の言い争いがひっかかり、素直に評価できずにいるのも事実。そもそもあの場所にいたのが自分なのであって、他の誰かでも良かったのではないだろうかと思うこともある。
 グラウンドではもうすぐ試合が始まるのだろう。色とりどりのユニフォームに身を包んだ選手がモザイクガラス越しにも目立ち始める。
 そんな折……、下半身から違和感を訴えられる。
「ん? な、なにしてるんですか?」
 見ると紅葉がジャージのズボンの帯紐を解いていた。
「んふふ……何って、授業料?」
「授業料って、聞いてませんよ?」
「そりゃ言ってたら来ないでしょ? 君ってムッツリ君だもん」
 裾口に手をかけられると爪が腹に触れ、背筋がゾクリとする。
「こんなところでそんなこと、第一、僕は香山さんの……」
「僕? うふふ。テンパると地が出ちゃうのね……」
 慌てて口をつぐむも時既に遅く、その一瞬の隙にズボンが下ろされてしまう。
「わぁ、辞めてくださいよ……」
 下ろされたズボンを慌てて上げ、あとずさる。けれど壁に阻まれ退路も無い。
「嘘嘘、君全然抵抗してないよ? しょうがないなあ……。んじゃさ今辞めたら大声出すよ? そしたら困るでしょ?」
 笑いながら出口に向う紅葉はそのまま鍵を閉める。
「脅迫なんてずるいです……」
 密室というには抜け道の多い倉庫だが、ガラクタ置き場に来る人など居らず、幸か不幸か邪魔をするものがない。
「だって君、そういわないと踏ん切りつかないじゃん」
 紅葉のおためごかしに乗りたくなるのは、彼が欲求不満な日々を過ごしているから。
「いいじゃない、少しぐらいさ……」
 近づく紅葉と後ずさる紀夫。壁に追いやられた彼は窓の鍵を外し、あけようとする。高さは彼の胸元より高い程度。ギリギリ出られる高さだ。けれど立て付けが悪いらしく、頭半分も開かない。
「なんでだよ、これ……」
「はぁ……ショックだな……」
「え?」
「だってさ、そんなに私って魅力無い? 逃げ出すほど嫌?」
「あ。いや、そういうわけじゃなくて、香山さんの応援に……」
「時間ならまだあるってば。それなのにさ、君ってば……酷い!」
 わざとらしく目を潤ませる紅葉はそのまま床にヘタレコミ、顔を覆いながらおいおいと泣きまねをする。
「そんな、そういうわけじゃなくて、だから……あのさ、えっと……」
 自分はからかわれている。そう確信している紀夫だが、それでも宥めるのは、後でどんな尾ひれをつけられるかが心配だから。今はとにかく彼女の機嫌を損ねぬよう、且つ不埒なマネをしないように気をつけることだ。
「……はぁーあ、やだな。なんかさ……」
「「!?」」
 開いた窓から聞こえてきたのは良く知った声。二人は顔を見合わせて窓の下へと急ぐ。

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